ファイルサーバーをオンラインストレージに移行するメリット・デメリットとは?選び方もご紹介
ファイルサーバーのクラウド化を検討してはいるものの「とりあえず大きな問題はないから」とそのまま使い続ける企業は少なくありません。しかしクラウド化を先延ばしにしているとやがて大きな問題が発生し、いざ切り替えるときに多大な手間とコストがかかる恐れがあります。
とはいえクラウド化する必要性が本当にあるのか知りたい、メリットやデメリットを把握したうえで検討したい、といった人もいるでしょう。そこで本記事では、
- 既存のファイルサーバーを使い続けることの問題点
- オンラインストレージに移行するメリットとデメリット
- 自社に適したオンラインストレージの選び方
などを解説します。ファイルサーバーのクラウド化について悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
オンプレミス型ファイルサーバーの問題点
これまで各種デジタルデータの保管先として、多くの企業では「オンプレミス型」のファイルサーバーが採用されてきました。「オンプレミス型」とは、社内にサーバーを置きネットワークを構築したうえで運用する方法を指します。
オンプレミス型ファイルサーバーは、自社のネットワーク内のみで利用されるため安全性が高いとされてきました。しかしITテクノロジーや通信環境の進化、働き方改革の推進や、コロナ禍の影響を受け、現在多くの問題を抱えています。ここでは具体的な問題点を4つ紹介します。
ストレージが不足する
オンプレミス型ファイルサーバーのもっとも大きな問題点は、容量に限界があるためストレージが不足する可能性があることです。
近年DXが推進されていること、ITテクノロジーが進化したことなどを受け、あらゆるデータのデジタル化が進んでいます。動画など容量を要するファイルも増加する一方ですが、従来のオンプレミス型ファイルサーバーは、あらかじめ定められた容量を超えてのデータ保存はできません。
とはいえサーバーを増設するのには労力とコストがかかります。そのため不要なデータの削除を促すことになりますが、過去のデータの要不要を判断するのは難しいうえ直接利益を生まない作業にリソースを割けないケースも多いでしょう。
そうするとデータをローカル環境や個人のファイルストレージに保存することが増え、シャドーITの蔓延につながるケースも見受けられます。その結果サイロ化が進む、セキュリティリスクが高くなるなど問題はどんどん大きくなっていくのです。
利便性やセキュリティ性が低い
オンプレミス型ファイルサーバーは、外部からのアクセスが困難であるため利便性が低いのも問題です。
近年新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、リモートワークを導入する企業が一気に増加しました。しかしオンプレミス型ファイルサーバーを利用している企業では、外部から安全に社内ネットワークに接続する環境を構築しなければなりません。環境整備にかかるコストの負担が大きく、とくに中小企業においては二の足を踏むケースも多いのではないでしょうか。
またオンプレミス型ファイルサーバーはサイロ化しやすく、データの一元管理ができないことも問題です。ファイルが各所に散らばると、検索性が落ちファイル共有が難しくなります。
その結果メールに添付する、個人のドライブに保存する、USBで持ち出す、外部サービスを使うなど、内部・外部とファイル共有するたびにデータが複製され続けることに。そうすると最新データと旧データが混在する、セキュリティ上のリスクが高くなるなどトラブルが発生する要因となってしまうのです。
サイバー攻撃の標的にされやすい
近年はファイルサーバーを標的としたサイバー攻撃が多発しており、経営リスクが高まる点にも注意が必要です。
警視庁が発表した令和4年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等についてによると、企業や団体などが令和4年上半期に受けたランサムウェア(感染することにより保存されているデータが暗号化される不正プログラム)による被害は114件にも上り、令和2年下半期以降右肩上がりで増加しています。
【引用】令和4年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について(PDF4頁)|警視庁
同調査によると、感染経路は安全な拠点間通信に必要となるVPN機器が68%で最多、続いてリモートデスクトップが15%と続きます。リモートワークに利用される機器などの脆弱(ぜいじゃく)性や認証情報の強度の弱さが標的とされていることがわかるでしょう。
ランサムウェアの被害にあった114件のうち59%が中小企業となっており「自社は大企業ではないから」と油断することはできません。ランサムウェアを含むマルウェアは手口が巧妙になる一方であることを考えると、自社でファイルサーバーを抱えている限り、セキュリティ対策へのリソースを投下し続ける必要があるのです。
災害に弱い
オンプレミス型ファイルサーバーは、サイバー攻撃だけではなく物理的な被害を与える災害に弱いのもデメリットです。
社内にファイルサーバーを設置していると、自社が被害に遭うと機能を停止してしまいます。バックアップを取っている場合でも、ファイルサーバーが物理的に被害を受けて壊れてしまえば、新たにサーバーを設置してリストアしなければなりません。それには手間と時間、そしてコストがかかります。
近年震災や台風、集中豪雨など大きな自然災害が相次いでいることを考えると、企業にとってBCP対策はDXとならび優先的に取り組むべき課題といえるでしょう。
ファイルサーバーの課題解決にはクラウド化が効果的
オンプレミス型ファイルサーバーが抱える多くの課題を解決する方法のひとつは、サーバーをクラウド化することです。
クラウド化とは、社内に物理的サーバーを設置するのではなく、インターネット上のストレージを活用することを指します。ファイルサーバーをクラウド化したものは「オンラインストレージ」と呼ばれます。「クラウドストレージ」「クラウド型ファイルサーバー」も同義として扱われるのが一般的です。
総務省が発表した令和2年情報通信白書によると、企業がもっとも多く利用しているクラウドサービスは「ファイル保管・データ共有」すなわちオンラインストレージで、その割合は59.3%にも達しました。
【引用】令和2年通信利用動向調査報告書(企業編)(PDF17頁)|総務省
多くの企業がファイルサーバーのクラウド化を選択しているのには、メリットがあるからにほかなりません。次章では、ファイルサーバーをクラウド化するメリットを解説します。
オンラインストレージに移行するメリット
ファイルサーバーをオンラインストレージに移行するメリットは6つあります。
- 業務効率を向上できる
- 容量を自由に増減できる
- データの一元管理が可能になる
- セキュリティリスクを低減できる
- BCP対策になる
- AI活用のデータ基盤として利用ができる
順番に解説します。
業務効率を向上できる
オンラインストレージはインターネット環境があれば社外からのアクセスが容易であるため、業務効率の向上が可能です。
従来の社内ネットワークをベースとしたファイルサーバーは、基本的には外部からのアクセスを前提としていません。そのためリモートワークに適しておらず、また他社とプロジェクトを進めるときにはファイル共有に大きな課題を抱えていました。
その点オンラインストレージであれば、インターネットに接続さえできればどこからでも同じファイルにアクセスして作業をおこなえます。社内・社外にいる人間が同じファイルを開きながら共同編集することも可能です。1箇所に集まり作業する必要がなくなり、時間や場所を問わずに効率的に業務を進められるようになるのです。
容量を自由に増減できる
オンプレミス型ファイルサーバーは容量に制限があり、ストレージがショートする恐れがあるのが課題でした。一方オンラインストレージは、容量が不足しそうになったときにはプランを変更したりオプションを追加したりするだけで簡単に容量を増やせるのがメリットです。サービスによってははじめから容量が無制限の場合もあるほどです。
反対に事業規模を縮小する、分社化するなどで今使っているほどの容量が不要になった場合でも、ダウングレードして容量を減らせば無駄が生じることもありません。
データの一元管理が可能になる
社内のデータをオンラインストレージに集約すれば、一元管理できることもメリットです。一元管理が実現すると、従来のファイルサーバーが抱えていたストレージが不足することによるシャドーITの蔓延やサイロ化の解消につながります。
オンラインストレージは検索性が高く、データの共有方法をひとつにできるのもポイントです。社内外でファイルを共有するときには共有リンクを発行すればよいので、メール添付などによりコピーデータが増え続ける心配もありません。
もしデータを上書きしてしまった場合には、従来のファイルサーバーでは管理者に復元を依頼する必要がありました。しかしオンラインストレージでは履歴が残り、バックアップデータから容易に復元が可能です。常に最新のデータを1つに保てるので、混乱やトラブルが生じにくくなるのがメリットです。
セキュリティリスクを低減できる
ファイルサーバーのクラウド化を検討するときに、セキュリティ上の不安を感じ二の足を踏む企業は少なくありません。総務省が発表した令和2年情報通信白書でも、クラウドサービスを利用しない理由として「情報漏えいなどセキュリティリスクに不安がある」との回答は37.0%と最多となっています。
しかし実際は、オンラインストレージに移行することでリスクは低くなるのが一般的です。インターネット環境下にあればどこからでもデータにアクセスできるため、USB、CD-Rなどによるデータの持ち出し・紛失のリスクを低減できることが理由のひとつです。
さらにオンラインストレージでは権限管理を設定しやすく、また万一不正が発生してもアクセスや操作ログが残っているので証跡管理しやすいこともメリットです。
BCP対策になる
オンラインストレージは自社内に物理サーバーを置かないため、BCP対策にもなります。万一大きな災害が発生して自社に被害が及んでも、ベンダーがバックアップを取っているので通信環境さえ確保できれば業務を遂行できるためです。
BCPが重要なのは緊急時のみではありません。緊急時でも稼働できる体制が整っている企業は「危機管理能力が高い」とみなされ、取引先や市場での評価も高くなります。災害発生時でも事業を継続できれば従業員の雇用を守ることにもつながります。ファイルサーバーのクラウド化は、BCPの最初の一手として取り組むべきといえるでしょう。
AI活用のデータ基盤として利用ができる
昨今はAIを活用してデータの検索をさせたり、AIにアイデア出しをさせたりなど、AIを使った業務活用が注目を浴びています。
オンラインストレージではAI機能を実装したサービスもリリースされており、社内にあるファイルをAIに読み込ませ、膨大なデータから欲しい情報を探させたり、マニュアルや手順書を要約させたりといったことが実現できます。
オンラインストレージに移行するデメリットと対策
ファイルサーバーをオンラインストレージに移行するのには、次のようなデメリットもあります。
- インターネット回線への依存度が高い
- カスタマイズ性が低い
- コストが増大する可能性がある
考えられる対策とあわせて順番に解説します。
インターネット回線への依存度が高い
オンラインストレージはインターネット上にデータを置くため、回線がダウンすると利用できなくなります。また利用人数が限られる社内ネットワークと比較すると、混雑具合によっては通信速度が遅く感じることもあるようです。
ただしオンラインストレージのなかには、インターネット回線が復活するまでの間はローカル環境にキャッシュされたデータを使えるサービスもあります。また通信速度が遅いと感じる場合は、オンラインストレージではなくネットワークに問題があることも。その場合は回線契約を見直すことを検討するとよいでしょう。
カスタマイズ性が低い
オンラインストレージはベンダーが汎用性高くパッケージ化しているため、どうしてもカスタマイズ性には乏しくなります。自社独特のレギュレーションや仕様があり、それに沿わなければ業務が滞るようなケースでは、オンラインストレージは適していないかもしれません。
ただしオンラインストレージは、パッケージ化されているからこそサイロ化・ブラックボックス化しにくいといえます。将来を見据えオンプレミス型のファイルサーバーから脱却するのであれば、自社に適合させることに腐心しコストを投じるのは得策ではありません。オンラインストレージにあらかじめ備わった機能を最大限有効活用する方法を考えるほうがはるかに建設的です。
まずは業務の棚卸しをして自社に必要な機能に優先順位をつけ、最低限のカスタマイズで済ませることを考えましょう。
コストが増大する可能性がある
オンラインストレージはサーバーやハードディスクを用意する必要がなく、運用・管理コストも不要です。しかし会社の規模が大きいとユーザー数やアカウント数が多くなり、さらに従量課金制のサービスであれば、想定以上にコストがかさむ可能性があるのがデメリットです。
コストを抑えてオンラインストレージを運用するためには、現状だけで考えず、将来的な経営戦略も含めて導入するサービスを検討することが大切です。
法人向けオンラインストレージの選び方
法人向けオンラインストレージを選ぶときに押さえておきたいポイントは5つあります。
- 自社の目的にあっているか
- 自社にあった料金体系か
- セキュリティ対策は万全か
- 使いやすいインターフェースか
- 認証システムと連携できるか
順番に解説します。
自社の目的にあっているか
「オンラインストレージ」と一口に言っても、さまざまな種類がありそれぞれ特徴が異なります。そのためまずは導入目的を明確にし、適したサービスを選ぶことが重要です。
たとえば社内と社外のどちらでの共有がメインなのか、マルチデバイスでの使用はどの程度想定しているのかなどによっても選ぶサービスは異なります。またファイルの共有ではなく一元管理を目的とする場合もあるでしょう。セキュリティ性を高めるためファイルの更新・履歴管理を徹底したいケースも考えられます。
これらは同じ社内であっても、部署によって異なることが少なくありません。オンラインストレージを今後どのように活用したいのかについては、各部署の希望をヒアリングしてまとめておくことが大切です。
自社にあった料金体系か
初期投資が比較的少なくてすむオンラインストレージですが、利用規模や今後の事業展開によっては費用が増大していく恐れがあるのはデメリットとしてお伝えしたとおりです。そのため現時点での利用料が安いサービスを選ぶのは得策ではなく、今後の自社の成長予測や経営戦略まで見据え、適した料金体系になっているかを見極める必要があります。
プランの変更のしやすさや、容量やユーザー、アカウントの追加にかかる費用まで、詳細に確認しておきましょう。
セキュリティ対策は万全か
オンラインストレージを導入する際は、高度なセキュリティ対策を施せるサービスを選ぶことも重要です。万一情報が漏えいすると、自社が保有する他社との許由データが流出し、今度は自社が加害者となる二次被害が発生することも。もしそのような事態がおこれば自社の信用は失墜し、致命傷を負いかねません。
サービス提供会社のセキュリティ体制はもちろん、利用時の操作ログの取得やアクセス権の設定ができるか、認証はどのようにおこなうのかなどについても詳しく調べておきましょう。
使いやすいインターフェースか
オンラインストレージで情報・データを一元管理するには、全社員が使うことを基本とする必要があります。そのためには、だれでも直感的に使いやすいインターフェースであることが重要です。導入したものの「使いにくい」と感じると、従業員は従来の手法からなかなか移行できないためです。
従業員に活用してもらえず結果的にデータが分散したままでは、業務効率化の実現はできません。近年はダイバーシティが進み、デジタルネイティブな若者から再雇用の高齢者、外国人材など社内にはさまざまな人が働いています。テスト運用するときには、できるだけ幅広い層に使ってもらい意見を聞くことをおすすめします。
認証システムと連携できるか
企業規模が大きい場合は、ユーザー管理の手間を省くために認証システムとの連携は必須です。とくにすでにほかのクラウドシステムを複数導入しているようなケースでは、シングルサインオンできるようなサービスを選ばないと、かえって利便性を損なう可能性があります。
通信の暗号化やウイルスチェックなどはどのサービスでも比較的差はなくなってきていますが、認証システムについては今なお差が大きいため注意しましょう。
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およそ5分で分かる!オンラインストレージの選び方
まとめ
ファイルサーバーをクラウド化すると容量不足の心配がなくなる、業務効率が向上する、データを一元管理できるようになるなど多くのメリットがあります。
とはいうものの、オンラインストレージは種類が多く、自社に最適なサービスを選ぶのは簡単ではありません。適したオンラインストレージは個々の企業の規模や今後の経営戦略によって異なるため、選択を誤ると費用対効果を得られないことも考えられる点には注意が必要です。
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